剣茶一如 其の壱 – 無外流居合兵道 頌寶塾

「逍遊録」

無外流居合兵道 頌寳塾 塾生ブログ

剣茶一如 其の壱

とある春先の宵、頌寶塾『第一回 茶道講習会』がささやかに開かれました。

それは、道場の在る施設内に茶室を発見したS師範が、

(今度、稽古が休みの晩に『彼』に茶道についての講習をやって貰えないだろうか…) と思い付かれたのが発端でした。

『彼』とは裏千家助講師の許状を持つ塾生H君のこと。

実は頌寶塾は、創立時メンバーである彼にはとてもお世話になっていて、方々からお褒めを頂いているホームページのデザイン(表紙写真も)と制作・管理もお願いしているのです。 こういう多才な人は本当に有り難いです。

という訳で『居合道』という極めて和的な事に興味のある方なら、茶道に関心を寄せている方も多かろうと、ここに、『剣茶一如』を目指すH君を案内人に頼んで、茶道の深い深い森に(ほんのちょっとだけ)分け入ってみようと思うのです。


さて、予めH君(以降:お茶席ではH蔵先生)から洋装の場合は白靴下で参加するよう言われていた我々。私こと青菊は、会津の新選組まつりで行進した時の白足袋を思い出し、箪笥の奥から引っ張り出して持って行きました。一方、S師範を通してH君には和装を強要していた青菊は「和服のHちゃん萌え~」とか妄想を連発しながら、直前にマックで腹ごしらえと、邪道の限りを尽くし身も心も脂ぎって、同行のS師範にくっついて茶室へ向かったのでした。


準備 茶室
▲この区立施設はまだ新しく、茶室もとても綺麗でした。茶碗や釜は勿論、軸や花入れなど道具は殆んどここで借りられます。

参加の塾生笑顔
▲当日、会社を終えて三々五々集まってきた塾生達。始まる前に撮影。まだ、シビレを知らない笑顔。

まずは、茶室への出入りの仕方から。

襖の開け閉め、お辞儀の仕方、扇子の置き方、進み方、立ち方、方向転換の時の足運びなど、H蔵先生のお手本のあと順番にやるのですが、面白さと緊張のあまり、お手本が何処かにトンでしまい…

「はい、左足、右足、被せて回って座って…」と、H蔵先生の指令どおりにギクシャク動くロボット状態に。まあ、初回だから!お?左足から進むというのは無外流と一緒じゃありませんか。方向を変える時に前に出した足を被せるのは居合の形の中にも出てきます。それから、お辞儀の仕方に『真・行・草』の区別がありますが、居合にも『真・行・草』の段階があると塾長に教わったことがあります。

さて、ロボットが7台(多!)席に着き、H蔵先生が水指や棗、茶碗等々のお道具を運んで来たところで、お点前が始まりました。 今回は、入門編よりも更に易しく『入門のきっかけ編』とでも申しましょうか。茶道に興味を持てるようなお話などをしながら、お点前を進めてくれます。

H蔵先生「『利休百首』をご存知ですか?茶道の心得を七五調で詠んだもので、その中に『其の道に入らんと思ふ心こそ我が身ながらの師匠なりけり』というのがあります。どんなことも、まずそれを始めてみようと思う自分自身のその心こそが、自分にとっての師匠ですよ、というような意味です」

なるほど。いきなり、自分が居合を始めた頃を思い出させ、初心に帰るようなお話です。今日ここに来ようと思った気持ちもきっとそうなんですね。

H蔵先生「さて、その『利休百首』が書いてある扇子が皆さんの前にあります。実はこれは刀の見立てなのです」

「え~っ」(急に親近感)

「どちらが刃になるか分かりますか?」

ここで、青菊の妄想がスパーク!

「確か、切腹の真似事をする時にこちら(要で綴じてある方)を腹に当てますね」

「お、鋭い。その通り」

「むふ~」(得意げ)

向かい席のJ「………」(悔しそう)

「こういう一首もあります『右の手を扱ふ時は我が心左の方にあるとしるべし』。どうですか、居合でも使えそうじゃありませんか」

うお~、利休さん、参りました!!

これは日頃、居合の稽古をやっている者なら、誰でも思いあたることがあるはずです。なんだか、H蔵先生が茶道を歩んでいる理由が、垣間見えるような見えないような…。

急に大事なもののような気がしてきた此の扇子は自分の後ろに置きます。

(H蔵先生、つかみはオッケーっす!めちゃくちゃつかまれてます!)

さて、H蔵先生が優雅な所作でお点前を進めている間、菓子鉢が回ってくるので、作法に従ってそれぞれが懐紙の上に一つずつ頂きます。今日の菓子は春らしい黄緑と黄色の、菜の花を思わせる『きんとん』でした。これが美味い。久しぶりにしみじみと和菓子を味わいました。

M吉「お茶が欲しいですねぇ」

「あはは~ホントホント」

そしていよいよお茶を頂く段になりました。客の人数が多いので、茶碗二つに代わる代わるお茶を点て、1人ずづ膝行して茶碗を取って席に戻り、次の人にお先の挨拶をしてから頂きます。

H蔵先生「お茶には『濃茶(こいちゃ)』と『薄茶(うすちゃ)』というのがあって、今日は薄茶です。濃茶はこれよりもかなりどろっとしていて一つの茶碗を皆で回して頂きます。」

ここで、向かい席のJが一口啜ってとたんに鬼瓦。

「(そ、そんなにニガいのか!?)」

「あ~ぢ~、おれ、猫舌、猫舌」

え、熱いの??

意外でした。これまで、お点前のお茶は人肌くらいの温度だと思い込んでいたのです。

H蔵先生(意に介さず淡々と)「昔、大谷吉継という武将が居て、彼はライ病だったのですが、お茶会の時、皆が彼の飲んだ茶碗で飲むのを嫌がったけれど、石田三成だけが嫌がらずに飲んでくれた。大谷はそれを恩義に感じて、関ヶ原で三成に忠誠を尽くして戦死するのです」

青菊、妄想スイッチオン!

「三成って、すっごくイイ男だったんだよね~」

「そこかよ!(違うところに感激しろ!)」

で、でも、今なんだか、武将と茶の湯の関係という妄想が光速で突き進むその彼方に、確かに何かが見えかけたんだ~!!

茶の湯→千利休→安土桃山時代→信長・秀吉・関ヶ原→武将・戦乱・刀ぎらぎら→死と隣り合わせ→茶の湯に戻る

昔の茶会って、実は凄い緊迫感があったのでは?生と死を内包しているような…。怖い。しかし、なんと魅力的な世界。歴史の真っ暗闇の中に吸い込まれそうです。

とうとう、末席の青菊にお茶が出されました。

や、やっと…!開始からほぼ1時間半がたち、日頃、居合の稽古で正座に慣れている我々も、さすがに足の痺れが限界に来ています。皆の(はよ、飲め、飲まんか~、お前で最後じゃ~)という無言の圧力に押されるも、あ、あれ?

「おかしいな?ウチのオイドの下に丸太が2本ある。前に進まれヘンわ」

「は~よせい~~~」(苦しそう)

H蔵先生によると茶道の稽古では長いと3時間も正座していることがあるそうですが、凄いことです。

肝心のお茶ですが、熱くて美味しかった。いや~なんでこんなに美味しいの?思わずにっこりです。

とにかく初めてのことだったので、H蔵先生も大目に見てくれて、随分と砕けた感じの講習会になりました。足の痺れはけっこう辛かったですが、日頃の稽古のおかげであっという間に回復。茶の湯と武将という暫く遊べそうな妄想アイテムを手に入れた青菊は、また、茶道講習会をやって欲しいと思いました。H蔵先生よろしくお願いします!

(茶碗を清めた『建水』を見て)「すげ~、こんなの見たことね~」ボソボソ…

そりゃあ、7人分ですから!

※狭い茶室に入れる人数は限られているので、参加者の公募はしません。また、お点前中の写真は今回は取りあえず非公開です。機会があればいずれ。

text by 青菊
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